うつつ染めがたり > Vol.16  稲葉 晶代さんの『こみなと漁師料理 海の庭』

登場する方の「人生」を彩る「うつつ染めがたり」

主人の修行時代があってこそ、いまの「海の庭」があります。

LANDLADY ×CHIBA KAMOGAWA Vol.16 稲葉 晶代さん 女将 「こみなと漁師料理 海の庭」 「こみなと漁師料理 海の庭」 千葉県鴨川市 目の前に海が広がる「海の庭」は、料理自慢の旅館として知られて
います。遠浅で波の静かな海水浴場はすぐそこ。夏には旅館にいながらにして花火大会が楽しめます。

安房小湊の駅に降り立つと、ほのかに香る潮風。青空の下、のんびりと海辺で釣りを楽しむ人々の姿が見え、時間がゆっくりと流れているように感じます。「海の庭」までは駅から車でわずか3分ほど。稲葉さんご夫妻がにこやかに出迎えてくれました。

小さな旅館だからこそできるもてなしがあると思います。

私の祖父の代から旅館をやっていて、私たち夫婦で三代目になります。昨年リニューアルオープンしたばかりなんですよ。5階の貸切露天風呂は改装を機につくりました。目の前に広がる海を眺めながら温泉に浸かれる絶好のロケーションです。海に沈む夕日を眺めながら入浴するのもおすすめですよ。

リニューアルを終えたのは2月だったんですが、間もなく東日本大震災が起きてしまって‥‥。予約で埋まっていた台帳がキャンセル続きで真っ白になってしまいました。でも、4月になってテレビ番組で紹介される機会があったんです。それを機に台帳が埋まるようになりました。ほんとうに幸運だったと思いますし、ほっとしましたね。

ありがたいことに1年に数回、宿泊なさるご家族もいらっしゃるんですよ。うちは客室が8室だけなので、お客さまの数も限られます。設備では大きな旅館にかないませんが、小さな旅館だからこそ目が行き届くことがあるのかなと思います。宿泊されている間に自然とお客さまの顔も覚えるので、観光からお帰りになった方に「お帰りなさいませ。○○のお部屋の○○さまですね」などと声を掛けると、「覚えていてくれたんですか?」なんて驚かれますね。

笑顔の稲葉さん

お風呂のお湯加減をみる稲葉さん

海の庭自慢の浴衣

海の庭のお風呂場

証券会社時代の同僚同士。旅館経営は予想外でした。

魚の仕入れはすぐ近くの漁港に行っていて、旅館の経営と板前をやっている主人が仕入れに行きます。漁港は歩いてほんの数分ですから、さきほどまで泳いでいた新鮮な魚をお客さまにお出しすることができるんですよ。
今日は立派な金目鯛を仕入れました。小湊の金目鯛は脂のりがよくて、美味しいって評判なんです。これから主人が調理しますから召し上がってみてくださいね。

主人は、証券会社で働いていた頃の同僚だったんです。みんなで飲みに行ったりスキーに行ったりする遊び仲間だったんですが、結婚まではとんとん拍子に話が進みましたね。付き合い始めた次の週には、もう結婚式場の下見に行ったんですよ(笑)。
早いもので結婚してから18年が経ちます。私たち、結婚した当初は、まさか旅館の仕事を継ぐことになるとは思っていなかったんです。でも、いろいろ事情が変わって継ぐことになりました。
旅館業とはまったく違う職業に就いていましたし、主人は料理をやったことさえありませんでしたから、最初は大変でした。よくね、主人は旅館を継ぐことになった当時を振り返って「俺は濁流に飲み込まれたんだな」って言って笑ってます。

主人は父のもとで修行。投げ出さずやり遂げてくれました。

うちは漁師料理をお出しする旅館として料理に力を入れていますから、やっぱり「美味しかった」と言われると素直に嬉しいですね。なかには、魚が苦手な方なのにうちの刺身だけは食べられる、なんて方もいらっしゃるんですよ。

主人は、板前になると決心してから、私の父や兄のもとで修行をして、料理のことを一から覚えてくれました。魚の種類とか、さばくときにはどんな角度で包丁を入れたらいいかとか、料理の味付けとか、細かいところまでみっちり。それまでまったく料理をしたことがなかったんですから、本当に大変だったと思います。父が小さな金目鯛を100匹くらい仕入れてきて、ひたすらさばく練習をさせたりね。あのときは、金目鯛が夢に出てきたって言ってました(笑)。
正直、当時は嫌で仕方なかったそうですが、あの修行があったからこそ、いま胸を張って料理をお出しできると言っています。あの人、けっこう負けず嫌いなんですよ。だから、途中で投げ出すことなくやってこれたのかもって思います。

漁港市場で魚の選定をするご主人

漁港であがった金目鯛

魚を一匹持ち上げるご主人

漁港で笑顔のご主人

金目鯛をさばくご主人

金目鯛の煮付け

刺身の舟盛りを用意する稲葉さん

お客さま商売なので清潔感を大切にしています。

女将の仕事はお客さまと接する機会が多いですから、清潔感を損なわないよう、身だしなみには気を遣っています。昔は髪が長くて結んでいたこともあったんですが、長いとお辞儀をしたときにどうしても髪が前にパサッて落ちるじゃないですか。お客さまをお迎えするときやお見送りするとき、お料理をお出しするときなど、お辞儀をするたびに髪が長いとどうしても気になっちゃって。だから、もうずっとショートカットなんですよ。あと、年配のお客さまもいらっしゃるので色味はあまり明るくならないよう気を付けていますね。

女将の仕事をしながら男の子3人の子育てをしてきましたから、小さい頃は大変でしたね。赤ちゃんの頃は、おんぶひもで背負いながら仕事をしていました。子どもたちは、旅館で育ったようなものなんですよ。
子どもたちのなかで、誰が旅館を継ぐかという話が出ることもあります。でも、自分の興味があることを仕事にしてもらいたいですし、継ぐ継がないを考えるのは、それぞれが好きなことをやってからでいいよって子どもたちに言ってるんです。
いつだって遅すぎることはないですし、好きなことをやってからでも本気で修行をすれば板前の仕事を身に付けることはできると思います。その点、うちには主人という見本がいますからね(笑)。

フロントでお客さまの対応をする稲葉さん

お客さまをお辞儀で見送る稲葉さん

フロントでご主人と笑顔の稲葉さん

「気取りのない雰囲気の「海の庭」は、あたたかみがあって居心地良く、ご夫婦のお人柄を表しているかのような空間でした。いまでも、よく二人でお酒を飲みに行くという稲葉さんご夫妻。
会話を聞いていると仲の良さが伝わってきます。ご主人が板前の修業を根気強く続けられたのは、夫婦愛が支えになっていたからだと感じました。

INFORMATION

こみなと漁師料理 海の庭

こみなと漁師料理 海の庭

ADDRESS

千葉県鴨川市小湊169

TEL  04-7095-2611

URL  http://www.uminoniwa.jp/

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