うつつ染めがたり > Vol.36  小玉 紫泉さんの『小玉紫泉つづれ織工房』

登場する方の「人生」を彩る「うつつ染めがたり」

京都へ移り住みつづれ織と出合いました。

TRADITIONAL CRAFTSMAN  × KYOTO    Vol.36 小玉 紫泉さんの『小玉紫泉つづれ織工房』 「小玉紫泉つづれ織工房」は、爪掻本つづれ織(つめかきほんつづれおり)の
伝統工芸士である小玉紫泉さんが主宰する工房です。小玉紫泉さんは、作品や注文を受けた帯などをつくる傍ら、一人でも多くの人につづれ織の魅力を知ってもらおうと、数人の生徒さんたちに技術を伝承しています。

約一万基もの鳥居が連なり、外国人観光客にも人気の伏見稲荷大社。京都には、日本が誇る名所が数多くありますが、いにしえより受け継がれてきた伝統工芸も京都の魅力の一つです。手織文化の伝統が息づく西陣・大黒町から車で走ること15分ほど。工房へ入ると、絵画と見間違うほど精巧に織られたつづれ織の額作品や装飾品が並んでいます。小玉 紫泉さんに、お仕事のことやつづれ織との出合いについて伺いました。

爪掻本つづれ織は糸で描く絵画のようなものです。

つづれ織を始めてから30年以上になりまして、平成8年には爪掻本つづれ織(つめかきほんつづれおり)の伝統工芸士として認定されました。
爪掻本つづれ織は、糸で一発勝負の絵を描くようなものだと思ってください。絵画のように鑑賞する額作品のほか、帯や財布、ハンドバッグなど、さまざまな装飾品をつくっています。
どんな織物も、縦糸と横糸が無数に交差することによって織り上げられます。爪掻本つづれ織は、細い糸を手作業で丁寧に織り上げますから、たとえば無地の帯でも1000回織ってやっと20センチというところでしょうか。柄織の場合、文様にもよりますが、長年やっている私でも一日で2〜3センチほどです。

ヤスリで研いだ爪で糸を掻き寄せて織ります。

爪掻本つづれ織は、横糸だけで柄を表現します。風変わりな名称は、爪先で糸を掻き寄せて文様を織ることからきています。ですから爪先の芸術ともいわれているんですよ。柄織の作品をつくっている期間は、爪をヤスリでクシのようにギザギザにしています。そうすることで糸が滑らず、スムーズに掻き寄せられるのです。
爪をギザギザにするのは、人差し指と中指、薬指のうちどれか一本だけですが、日常生活で思わぬ悩みも出てきます。たとえば、冬などの肌が乾燥する時期は、無意識のうちに肌を掻いてしまって血だらけになってしまうことがあります。あと、髪を洗っているときに引っかかることもありますね。ですから柄織の作品づくりを終えると、爪のギザギザをなくしてきれいに整えるようにしています。

専業主婦だった頃は、家事や家族の世話がいちばんで、自分の肌や髪のことはあまりかまわずにきました。でも60歳を前にした頃、少し気をつけようという気持ちになりました。あまり手を掛けないでいると、ふけて見えてしまうなと思いまして。

パートから始めたつづれ織。義母のすすめがきっかけでした。

私はもともとモノづくりが好きで、出身地である大阪にいた当時は洋裁をやっていました。爪掻本つづれ織に出合ったのは、結婚後、主人の実家がある京都へ移り住んでからです。主人の母に「せっかく京都に住んでいるんだから」とすすめられて、つづれ織の会社にパートとして入社したんです。もちろん、つづれ織の知識や技術など何もありませんでした。
私が28歳の時のことでしたが、柄織の技術を一から修得するには年齢が行き過ぎているという理由で、毎日織るのは無地のものばかり。残念ながら柄織の技法は基本中の基本しか教えてもらうことができませんでした。

オリジナルの作品を手に自分で販路を探しました。

つづれ織の会社に入って2年も経たないうちに転機がありました。義母が健康を損なってしまい、自宅で世話をするために会社を辞めることになったんです。でも、つづれ織をやめたくはありませんでした。
主人に相談したところ、「作品ができたら俺が売り歩いてやるから続けろ」と背中を押してくれて、自宅を工房にして試行錯誤しながら織りはじめました。会社務めのときにはできなかった自分のオリジナルの柄織です。
しばらくしていくつかの作品ができたんですが、結局、警察官として働いていた主人が売り歩くことはなくて、自分で呉服店に一軒一軒持ち込みで販路を探しました。とはいえ、すぐに買い手がつくわけはありません。何軒も通ううちに、ある日、作品を見てくれたある会社の仕入課長さんが図案を褒めてくれて、がんばって続けるように言われました。つづれ織の世界では、専門の人に図案をお願いする場合が珍しくありませんが、私は初めから自分で描いていたんです。あの時いただいたお褒めの言葉は、自分の自信につながったと思っています。

なんの知識や技術もないまま始めたつづれ織でしたが、京都が誇る伝統工芸の担い手となった小玉紫泉さん。独立してからの活躍や、支えてくれたご主人への思いとはどのようなものだったのでしょうか。お話の続きは、11月4日(火)公開予定の後編でお届けします。

INFORMATION

小玉紫泉つづれ織工房

小玉紫泉つづれ織工房

ADDRESS

京都市北区平野鳥居前町24-33

TEL

075-465-5484

URL

http://jpn.shicen.com/

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